【第1回】上司が言う「マーケ」が何を指しているのか|マーケティングの定義(嫁子が教えるマーケ講座)

今回のゴール

第1部(会議についていく)に入ります。全体の流れは講座の目次、この講座の前提ははじめににあります。


嫁子: 最初の回だから、いちばん大事なことを言っておくね。

「マーケティングとは何か」を覚えても、あなたの仕事は分からないの。この2つは別の話だから、その理由をこれから説明していくね。


1. 公式の定義はこうなっている

まず本物を見ておきます。公益社団法人日本マーケティング協会が2024年1月に、34年ぶりに定義を改訂しました。

マーケティングとは、顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである

(公益社団法人日本マーケティング協会が2024年1月に発表した定義。2026年9月時点)

読んでも、明日の朝やることは1つも出てきません。私も最初に読んだときは何も分かりませんでした。

ちなみに1990年の旧定義では主体が「企業および他の組織」でしたが、新しい定義では個人や非営利組織も主体になり得るとされています。それだけ広い範囲を指す言葉だということです。


2. なぜ定義を読んでも仕事が分からないのか

理由は単純です。

定義が指しているのは「マーケティングという活動の全体」で、会社のマーケ部が担当しているのはその一部だからです。

会社で言う「マーケ」は、この広い概念のうち、自分の会社が切り取った一部分を指しています。どこを切り取っているかは会社ごとに違います。

だから「マーケティングとは何ですか」と上司に聞いても、あまり役に立つ答えは返ってきません。聞くべきことが違います。


3. 会社の中で「マーケ」が指しているもの

よくあるのは次の4つです。名前は同じでも、やることはかなり違います。

型 主な仕事 求められる結果
集客型 広告出稿、検索対策、SNS運用 問い合わせや申込の件数
販促物型 資料・パンフレット・サイトの制作 営業が使える道具を揃えること
調査分析型 市場調査、顧客データの分析 意思決定に使える材料
事業企画型 商品・価格・売り方まで決める 売上と利益そのもの

ここを取り違えると、頼まれていない仕事をして、頼まれている仕事を落とします。

たとえば集客型の部署にいるのに商品改良の提案書を作っても、「それはうちの担当ではない」で終わります。悪気なくやってしまうのが厄介なところです。

嫁子: 同じ「マーケ部」でも、中でやってることが全然違うんだよね。

だから転職してきた人のアドバイスが、そのまま当てはまらないことがあるの。前の会社では正しかったんだよ。会社が違うだけでね。


4. 最初にやるのは、範囲の確認

異動して最初の1週間でやるべきは、勉強ではなく確認です。上司に次の3つを聞いてください。

  1. この部署が結果を求められている数字は何ですか
  2. どこまで自分たちで決めていいですか(価格は動かせるか、商品は変えられるか)
  3. 営業部とはどこで線を引いていますか

聞き方のコツは、「マーケティングとは何ですか」と聞かないことです。それでは一般論しか返ってきません。聞くのは「うちのマーケ部は何をする部署ですか」です。

3つとも、答えが曖昧なまま進むと後で必ず揉めます。特に2つ目は、後から「勝手に決めた」と言われる原因になるので、早めにはっきりさせておくほうが安全です。


5. 営業との境界線

営業から移ってきた人にとっては、ここが一番実感しやすいところです。

よくある線引きは「会う前がマーケ、会ってからが営業」です。問い合わせや資料請求を作るところまでがマーケ部で、そこから先の商談は営業部が持ちます。

ただしこの線は会社によってずれます。マーケ部が初回の電話までかけるところもあれば、広告を出すだけで名簿は営業部が管理するところもあります。

営業出身者が最初から持っている強み

ここで効いてくるのが前職の経験です。

引き継いだ相手がどんな状態だと営業が動きやすいかを、あなたは体で知っています。名前と電話番号だけ渡されても困ること、何に困って問い合わせたのかが書いてあると助かることを、実感として分かっているはずです。

これは調査でも研修でも身につきません。境界線の引き方を相談されたら、遠慮せずに意見を言っていいところです。

嫁子: それ、本当にそう。私も美容室の予約サイトで「希望の仕上がり」を書く欄があるとありがたいもん。

書かずに行くと、席についてから全部説明することになるでしょ。先に渡しておけるものは渡しておきたいの。それ、お店側の都合じゃなくて客側の都合でもあるんだよ。


6. AIに聞くとどうなるか

試しに「マーケティングとは何か」とAIに聞いてみると、教科書的な説明がきれいに返ってきます。内容も正しいです。

ただし「うちの部署が何をすべきか」は答えられません。会社の事情を知らないからです。

はじめにで書いた4つの困りごとのうち、1つ目がまさにこれでした。一般的に正しいものが、一般的なまま返ってきます。

順番はこうなります。

  1. 自分で確認する(上の3つの質問)
  2. 確認できた範囲をAIに伝える
  3. その範囲の中でどう動くかを相談する

自分が確認したことを渡さない限り、AIは一般論しか返せません。この講座で「まず原理から」と言っているのは、渡すものを自分で作れるようにするためです。


つまずきポイント

定義の暗記は不要です。 会議で定義を言う場面はまず来ません。聞かれるのは「で、何をやるの」です。

「マーケティング」と「マーケティング部の仕事」は別物です。本を読んで前者を知っても、後者は会社ごとに確認するしかありません。

本やセミナーの話がそのまま当てはまらないのも同じ理由です。書かれているのは事業企画型を前提にした話が多く、集客型の部署にいると使えない部分が出てきます。


今回のまとめ


次にやること

次回は会議で飛び交う略語の地図を作ります。CPAとLTVとROASが何を見ている数字なのか、まとめて整理します。

今回の宿題:上の3つの質問を、上司か先輩に実際に聞いてみてください。2つ目(どこまで決めていいか)が特に大事です。

嫁子: 最後に買う側から一言ね。さっきの定義に「顧客と共に価値を創造し」って書いてあったでしょ。

悪いけど、私は誰かと一緒に価値を創ってるつもりで買い物したことは一度もないの。欲しいから買ってるだけだよ。

これ、定義が間違ってるって話じゃないからね。作る側の言葉と、買う側の実感はそもそも違うっていうこと。そこを忘れると、社内では通るのにお客さんには届かない企画ができあがるよ。