【第4回】「全員に売る」が誰にも売れない理由|市場とセグメント(嫁子が教えるマーケ講座)

今回のゴール

第2部に入ります。ここからが本題で、第1部は準備運動でした。全体の流れは講座の目次へ。


嫁子: 今日から3回くらい、ずっと「誰に売るか」の話をするからね。

先に言っておくと、ここがほとんどの会社で決まっていないところなの。決まってないまま広告を出すから、当たらないんだよ。


1. 営業から来た人が、最初に納得できないこと

異動して最初の企画会議で、「ターゲットを絞りましょう」と言われました。

正直に言うと、抵抗がありました。営業のときは目の前に来た人が誰であっても売っていたからです。相手が20代でも70代でも、話し方を変えれば契約は取れました。絞るというのは、客を減らすことに聞こえます。

この感覚は営業では正しいものなので、間違ってはいません。ただしマーケティングでは通用しません。

理由ははじめにの表に書いた1行目です。マーケティングには目の前の相手がいません。相手に合わせて話し方を変えることができないので、あらかじめ誰に向けるかを決めたうえで、1つの言い方を作るしかありません。

「どなたでも」と書かれた広告は、誰の話し方にも合っていない広告になります。


2. 絞ると何が変わるのか

具体的に3つ変わります。

まず言葉が変わります。うちのハウスクリーニングで言えば、「ていねいな清掃をお届けします」から「共働きで手が回らない水回りを、平日の日中に片づけます」に変わります。後者は、当てはまる人には自分のことだと分かります。

次に出す場所が変わります。共働き世帯に向けるなら、平日の昼にテレビ欄へ出す意味は薄くなります。誰に向けるかが決まって初めて、どこに出すかが決まります。

最後にお金の使い方が変わります。30万円を全方位に薄く配るのと、当たりそうな層に集中させるのとでは、同じ金額でも結果が変わります。

嫁子: 買う側から言うとね、「誰にでも合います」って書いてある商品は、誰にも合わない気がするの。

シャンプーでも「全髪質対応」より「くせ毛でうねる人向け」のほうが手に取るでしょ。自分のことだと分かる書き方をしてほしいだけなんだよ。


3. 絞る=断る、ではありません

ここは誤解が多いところなので、はっきりさせておきます。

ターゲットを30代の共働き世帯に決めたからといって、60代の人から電話が来たら断る、という意味ではありません。来た人には普通に売ります。

絞るのは、限られた広告費と言葉を、どこに集中させるかの話です。入口の設計であって、入ってきた人の選別ではありません。

会議でこの2つが混ざると話がこじれます。営業部から「うちの客には年配の方も多い」と反発が来たら、たいていここが噛み合っていません。


4. どう切るか(4つの切り口)

市場を切り分けることをセグメンテーションと呼びます。切り口は大きく4つです。

切り口 例
属性 年齢、性別、世帯年収、家族構成
地域 エリア、都市規模、気候
行動 利用頻度、購入経路、使っている時間帯
理由 何に困って買うのか、何を解決したいのか

教科書では上から順に説明されることが多いのですが、実務で効くのは下の2つです。理由は次の節で説明します。


5. 切っても何も変わらない切り方がある

ここが今回いちばん大事なところです。

判定の仕方は1つです。そのセグメントに分けた結果、打ち手が変わるかどうかを見ます。変わらないなら、切った意味がありません。

うちの会社で実際に両方やってみると、こうなりました。

効かなかった切り方(年齢)

30代/40代/50代で分けてみましたが、どちらにも同じ広告を出すことになりました。困りごとが年齢で決まっていないからです。

40代でも共働きで手が回らない人はいますし、30代でも在宅中心で自分で掃除する人はいます。分けたのに言うことが同じなら、分けていないのと変わりません。

効いた切り方(なぜ頼むのか)

同じ顧客を「頼んだ理由」で切り直すと、まったく別のものが見えました。

理由 言うべきこと 出すべき時期
引っ越し前後 退去費用より安く済む場合がある 転居の多い時期
来客の前 直前でも間に合う 年末・連休前
共働きで手が回らない 平日日中に入れる、留守中も可 通年
体力的にきつくなった 高所や重い作業だけでも頼める 通年

言うことも、出す時期も、全部違います。これなら分けた意味があります。

切り口を選ぶときは「分けられるか」ではなく「分けたら打ち手が変わるか」で選ぶ、と覚えてください。

嫁子: 年齢で切られるの、けっこう嫌なんだよね。

「30代女性はこう」って言われても、同じ30代でも全然違うでしょ。私が何に困ってるかで分けてくれたほうが、ちゃんと届くと思うよ。


6. 絞ったあと、どれを選ぶか

切り分けたあと、そのうちどれを狙うかを決めます。ここまでがセットです。

見るのは3つです。

  1. 数がいるか(小さすぎると事業にならない)
  2. お金を払う理由が強いか(困り方が深いほど動く)
  3. 自社が応えられるか(できないことを狙っても続かない)

うちの場合、3番目で1つ落ちました。「体力的にきつい」層は困り方が深く、数もいます。ただしその層が本当に欲しいのは月1回の定期訪問で、うちは単発の大掃除しかやっていません。狙っても応えられないので、今期は外しました。

狙わないと決めることまでが、この作業です。 全部に丸をつけて会議を終えると、何も決まっていないのと同じになります。


7. AIに任せるとき

この作業のうち、AIが得意なのは切り口を出すことです。

「ハウスクリーニングの顧客を、依頼の理由で分けるとどんな型があるか」と聞けば、候補が並びます。自分では思いつかなかった切り口が混ざることもあるので、材料としては有用です。

任せてはいけないのは選ぶほうです。どのセグメントを狙うかは、自社の体制と数字を知らないと決められません。上の3番目(応えられるか)は、社内の事情そのものです。

もう1つ、返ってきたものに必ずやる点検があります。出てきた切り口を1つずつ「これで分けたら打ち手が変わるか」に通してください。AIは分けやすい切り口(年齢・性別)を先に出す傾向があり、そのまま使うと5節の失敗をなぞります。


つまずきポイント

「ターゲットは30代女性」で止まらないこと。 これは属性であって理由ではありません。何に困っている30代女性なのかまで書けて、初めて次に進めます。

セグメントを増やしすぎると管理できなくなります。最初は2つか3つで十分です。

営業部への説明を先にしておくと揉めません。3節の「入口の設計であって、来た客を断るわけではない」を最初に共有してください。


今回のまとめ


次にやること

次回はAIが作るペルソナが使えない理由です。今回決めたセグメントを、人物像まで落とし込む回になります。嫁子が狙われている側の当人として反論する回でもあります。

今回の宿題:自社の顧客を「なぜ買ったのか」で3つに分けてみてください。分けたあと、それぞれに言うことが変わるかを確かめれば、今回の内容は身につきます。

嫁子: 次回、私けっこう本気で文句を言うからね。

だってペルソナって、私みたいな人を勝手に作って、勝手に納得してるやつでしょ。当人から見てどうなのかを言わせてもらうよ。