【第5回】AIが作るペルソナが使えない理由|ターゲット設定(嫁子が教えるマーケ講座)
今回のゴール
- ペルソナが役に立つ場合と、飾りで終わる場合の違いが分かる
- AIに作らせた人物像のどこが危ないかを見抜ける
- 自分のペルソナを、狙われている側の目で点検できる
第4回でセグメントを切りました。今回はそれを人物像に落とす回です。全体の流れは講座の目次へ。
嫁子: 今日は最初に言っておくね。私、この回は途中で先生をやめます。
ペルソナって、私みたいな人を勝手に作る作業でしょ。だったら当人の言い分も聞いてもらわないと、フェアじゃないからね。
1. ペルソナとは何をするものか
第4回で「共働きで手が回らない層」というセグメントを決めました。ただ、これだけでは広告の文章が書けません。
そこで、その層をたった1人の具体的な人物として書き出します。これがペルソナです。
なぜ1人にするかというと、複数を想定した文章は誰にも刺さらないからです。「30〜50代の共働き世帯」に向けて書こうとすると、どうしても当たり障りのない言い方になります。1人に向けて書けば、言葉が具体的になります。
ここまでは正しい話です。問題は、この作業がほぼ確実に都合のいい方向にねじれることです。
2. AIに作らせると、こうなります
試しに「ハウスクリーニングの共働き世帯向けペルソナを作って」と頼むと、こういうものが返ってきます。
佐藤美咲(34歳) 都内在住、夫と子ども1人の3人暮らし。IT企業で時短勤務。世帯年収800万円。 平日は家事に手が回らず、休日は家族と過ごしたい。品質を重視し、価格よりも安心感を優先する。口コミを参考に、信頼できる業者を慎重に選ぶ。 Instagramで家事効率化の情報を収集している。
よくできて見えるので、会議に出しても通ります。
ここで嫁子に読んでもらいました。
嫁子: これ、私のことだよね。34歳、都内、共働き、インスタ。ほぼ一致してる。
そのうえで言うけど、こんな人はいないよ。
「価格よりも安心感を優先する」って書いてあるでしょ。私、そんなことないから。安心できる業者が2つあったら、絶対に安いほうにする。というか最初に見るのは料金表だよ。
「口コミを参考に慎重に選ぶ」も違うかな。慎重に選んでるんじゃなくて、失敗したくないから消去法で減らしてるの。★の数で選んでるんじゃなくて、低い評価の理由を読んで「これは無理」を外していってる。順番が逆なんだよ。
あと「家事効率化の情報を収集」って、そんな前向きな活動してないからね。疲れてる夜に、だらっとスマホ見てるだけ。その流れでたまたま広告が出てくるだけだよ。
3. なぜ都合よくなるのか
嫁子の3つの反論は、全部同じ原因から来ています。
書かれているのが「行動」ではなく「性格」だからです。
| 書かれていたこと | 実際に起きていること |
|---|---|
| 品質を重視する | 2つ並べて安いほうを選ぶ |
| 慎重に選ぶ | 低評価を読んで消去法で減らす |
| 情報収集している | 疲れた夜に受動的に眺めている |
左側はどれも褒め言葉です。ペルソナに性格を書くと、人はほぼ必ず良い性格を書きます。「値段しか見ない」「広告は読み飛ばす」と書くのは気が引けるからです。
AIも同じで、むしろ人間より露骨にそうなります。ペルソナを頼まれると、その商品を買いそうな良い人を作ってしまいます。
そして良い性格の人物像を前提に企画を立てると、「品質の高さを丁寧に伝える施策」のような、現実には効かないものが出てきます。
ペルソナが飾りで終わるのは、作り方が甘いからではなく、性格を書いてしまうからです。
4. 使えるペルソナに必要な3つ
では何を書けばいいのか。実際に書き直して分かったのは、次の3つです。
① 性格ではなく、直前の行動
「品質を重視する」ではなく、申し込む直前に何をしたかを書きます。
22時、風呂上がりにスマホで「換気扇 掃除 業者 ◯◯市」と検索。上から3つ開いて、料金がすぐ分からない1つをすぐ閉じた。
これなら、料金を上に置くという打ち手が出てきます。性格からは打ち手が出ません。
② 断る理由
買う理由より、買わない理由のほうが使えます。
他人を家に上げるのが気になる。作業中ずっと在宅しないといけないなら頼まない。
ここから「留守中でも作業可能」を先に出す、という判断ができます。第4回の表に書いた「留守中も可」は、ここから来ています。
③ 誰にどう説明するか
実はこれが一番効きました。家庭内で誰かに説明する必要がある買い物かどうかです。
夫に「2万円かけて頼んだ」と言う場面がある。言い訳が要る。
そうであれば、本人を説得するだけでは足りません。「自分でやると3時間かかる」のような、第三者に言える理由を渡す必要があります。
嫁子: ③、大きいよ。
私が美容院にいくら使ったか黙ってるのはさ、説明するのが面倒だからなの。逆に、説明しやすい理由がある買い物はハードルが下がるんだよ。「プロがやったほうが結局安い」とか、そういうのが欲しいの。
5. 書き直したペルソナ
上の3つで書き直すと、こうなりました。
30代後半、共働き、子どもあり。換気扇の油汚れを半年放置している。自分でやろうと洗剤を買ったが、1回で挫折した。 夜22時ごろ、スマホで検索して比較する。料金が3クリック以内に出てこない会社は見ない。 在宅が必要なら頼まない。作業中は出かけたい。 2万円を超えると、夫に言う場面が発生する。「自分でやるより安い」と言える材料が要る。
年齢と職業はほとんど残っていません。代わりに打ち手が4つ出てきます(料金の位置、留守対応、挫折した人への声かけ、説明材料)。
前のペルソナからは1つも出ませんでした。これが使えるかどうかの差です。
6. AIの使い方(順番が逆でした)
最初、私はAIにペルソナを作らせて、それを前提に企画を考えました。これが間違いでした。
正しい順番はこうです。
- 実際の顧客の行動を自分で集める(問い合わせ履歴、営業のメモ、通話記録)
- それをAIに渡して、共通点を見つけさせる
- 出てきた型を人物像にまとめさせる
- 性格の記述が混ざっていたら、行動に書き換える
材料なしで作らせると、はじめにで書いた「一般的に正しいものが、一般的なまま返ってくる」になります。ペルソナは自社のデータがないと作れないものです。
4番目は毎回やってください。「〜を重視する」「〜を大切にしている」という表現が出てきたら、それは何をしたことなのかに直します。
営業出身なら、1番目の材料が社内にどこにあるか分かるはずです。営業の頭の中にあるものが最大の資産で、まだ誰も書き出していないことが多いところです。
つまずきポイント
ペルソナに名前と顔写真をつけると、それだけで本物っぽく見えます。 中身が性格ばかりでも、見た目で通ってしまうので注意してください。
作ったら当人に近い人に読んでもらうのが一番早い点検です。社内に近い属性の人がいれば見せてください。だいたい「そんな風には動かない」と言われます。
ペルソナは1つで十分です。複数作ると、結局どれにも当てはまらない平均的な文章に戻ります。
今回のまとめ
- ペルソナを1人にするのは、複数を想定した文章が誰にも刺さらないから
- 使えなくなる原因は作り込み不足ではなく、性格を書いてしまうこと
- AIは頼まれると「その商品を買いそうな良い人」を作る
- 書くのは、直前の行動・断る理由・誰にどう説明するかの3つ
- 順番は「自社のデータを集める → AIに型を見つけさせる」。逆にしない
- 「〜を重視する」と書いてあったら、それは何をしたことなのかに直す
次にやること
次回は買う人が通ってきた道を書き出す回です。今回のペルソナが、困ってから申し込むまでにどこを通るのかを並べます。
今回の宿題:手元にあるペルソナ(なければAIに1つ作らせて)から、性格を書いている文を全部消してみてください。何も残らなければ、それが今回の答えです。
嫁子: 最後に、当人として一番言いたいことね。
私、自分がターゲットにされてること自体は全然いやじゃないの。欲しいものが届くほうがありがたいからね。
いやなのは、実際の私と違う人物を想定されて、そっちに向けて話しかけられることだよ。「上質な暮らしを大切にするあなたへ」とか言われても、こっちは換気扇の油に困ってるだけなんだよね。