【第7回】「欲しい」の下にある本音を掘る|顧客インサイト(嫁子が教えるマーケ講座)

今回のゴール

第6回で道のりを書きました。今回はその道を歩いている人の頭の中です。全体の流れは講座の目次へ。


嫁子: 今日のテーマ、私は当人として一番モヤっとするところだよ。

だって本音を掘るって、要は言ってないことを勝手に推測するってことでしょ。当たることもあるけど、外すと結構いやなの。その話もするね。


1. ニーズとインサイトは違う

会議で混ざりやすい2つです。

ニーズは、聞けば答えてくれることです。「安くしてほしい」「土日に来てほしい」。これは本人が自覚していて、言葉にできます。

インサイトは、本人が言葉にしていない理由のほうです。言わないのは隠しているからではなく、自分でも意識していないことが多いからです。

うちで実際に出てきた例で並べます。

言われたこと(ニーズ) その下にあったもの(インサイト)
「もっと安くしてほしい」 高いのが嫌なのではなく、いくらか分からないのが怖い
「土日に来てほしい」 土日が良いのではなく、他人を家に入れる間ひとりでいたくない
「実績のある会社がいい」 実績が見たいのではなく、失敗したときに文句を言える相手がほしい

左を真に受けると値下げの話になりますが、右まで届くとやることが変わります。

1行目なら、値下げではなく「作業前に必ず見積もりを出して、追加料金は発生しない」と書けば解決します。実際、うちはこれで問い合わせが動きました(数字は第5部で扱います)。


2. なぜ本人に聞いても出てこないのか

理由は3つあります。

ひとつは、自分でも分かっていないことです。なぜその会社を選んだのかを後から聞くと、だいたい「なんとなく」と言われます。人は選んだ後に理由を作るので、本当の決め手は本人にも見えていません。

次に、言いにくいことがあります。「掃除ができていない家を見られるのが恥ずかしい」は、アンケートには書きません。

最後に、聞かれ方につられます。「価格は重要ですか」と聞けば、たいていの人が「重要です」と答えます。これは第8回で詳しく扱います。

嫁子: 2番目、本当にそう。

業者を呼ぶ前に自分で軽く掃除するの、あれ何なんだろうね。汚いから呼ぶのに、汚いと思われたくないんだよ。この気持ち、アンケートには絶対書かないよ。

でもこれが分かってるなら、「片づけずにそのままで大丈夫です」って一言サイトに書いてあるだけで、私はそこに頼むと思う。


3. どうやって見つけるか

うちでやってみて、効いた順に3つ挙げます。

① 断られた理由を聞く

一番効きました。契約にならなかった人に理由を聞くと、買った人より本音が出ます。買った人は自分の選択を正当化しますが、断った人にはその必要がありません。

営業部に「見積もりまで行って流れた案件の理由」を聞いて回るところから始められます。

② 実際の言葉をそのまま集める

問い合わせフォームの自由記入欄、電話の第一声、口コミに書かれた文章。要約せずに原文のまま集めます。

要約すると「価格への不満」のように分類されてしまい、その瞬間にインサイトが消えます。「見積もりのとき、後から追加されないか不安でした」という言い方そのものに情報があります。

③ 行動の矛盾を探す

言っていることと、やっていることが食い違う場所を探します。

うちで見つかったのは、「安いところを探している」と言いながら、最安の会社には問い合わせていないという動きでした。ここから「安すぎると何かあると思われている」という仮説が出ました。

矛盾している場所に、たいてい本音があります。


4. インサイトの書き方

見つけたものは、次の型で1行にまとめます。

(誰が)は、(表面的にはこう言う)が、本当は(こう思っている)。なぜなら(理由)だから。

うちの例だとこうなります。

共働きで換気扇を放置している人は、「高い」と言うが、本当は金額の高さより総額が見えないことを警戒している。なぜなら、作業後に追加請求された話を見聞きしているから。

最後の「なぜなら」が書けないうちは、まだ推測の域を出ていません。根拠がある推測と、思いつきを区別するための一文です。


5. AIに任せるとき(ここが今回の注意点)

「ハウスクリーニングを頼む人のインサイトを教えて」と聞くと、それらしいものが並びます。

時間を買いたいという願望がある。自分の時間を家族に使いたい。プロに任せることで心の余裕を得たい。

読むと分かりますが、これは全部ニーズを言い換えただけです。しかも良い方向に言い換えられています。「心の余裕」「家族との時間」は、第5回で見た良い性格の人物像と同じ現象です。

本当のインサイトは、たいていもう少し格好悪いものです。恥ずかしい、面倒、損したくない、失敗を人のせいにしたい。AIは頼んでもここを出してきません。

使い方はこうなります。

  1. 3節で集めた生の言葉をAIに渡す
  2. 共通する言い回しや、繰り返し出てくる不安を拾わせる
  3. 出てきたものに「それは本人が言いそうな言葉か」を当てる

3番目が点検です。本人が口に出しそうにないものだけが、インサイトの候補として残ります。「時間を買いたい」は本人も言うので、ニーズです。


6. 外したときに何が起きるか

最後に、嫁子が最初に言っていたことに戻ります。

インサイトは推測なので、外れます。外れた推測をそのまま広告にすると、当人にはかなり不快に見えます。

嫁子: 「忙しいあなたの代わりに」とか言われるとね、ちょっとカチンとくるときがあるの。

こっちは忙しくて放置してるんじゃなくて、単純にやりたくないだけの日もあるからね。勝手に事情を決められると、分かってもらえてない感じがするんだよ。

だから外さないための方法は1つです。推測を断定しないで書くことです。

「忙しいあなたの代わりに」は決めつけですが、「片づけずにそのままで大丈夫です」は事実の提示です。インサイトは、相手の心情を言い当てて見せるためではなく、こちらの打ち手を決めるために使います。


つまずきポイント

インサイトを広告のコピーにそのまま書かないこと。 「あなたは本当は恥ずかしいのですよね」と書く会社はありません。使うのは打ち手を決めるところまでです。

1つに絞ってください。複数のインサイトを同時に狙うと、どれも浅くなります。

「深い洞察」を出そうとしすぎないのも大事です。実際に効くものは、だいたい地味です。


今回のまとめ


次にやること

次回は聞き方を間違えると嘘が返ってくる回です。第2部の最後で、今回の「聞かれ方につられる」を正面から扱います。

今回の宿題:直近で失注した案件の理由を、営業部に3件だけ聞いてみてください。買った人の話より多くのことが分かります。

嫁子: 今日の話でひとつだけ気をつけてほしいのはね、本音を当てにいくのは、当てたことを言うためじゃないってこと。

分かったなら、黙ってサイトの書き方を変えればいいの。「あなたの本音は分かってます」って言われるのが、たぶん一番いやだからね。