【第8回】聞き方を間違えると嘘が返ってくる|定量調査と定性調査(嫁子が教えるマーケ講座)

今回のゴール

第2部の最後です。第7回で「聞かれ方につられる」と書いた話を、正面から扱います。全体の流れは講座の目次へ。


嫁子: アンケート、私も答えたことあるけどね。

正直に言うと、ちゃんと考えて答えてないこと、けっこうあるよ。急いでるときは上から適当に押していくもん。その前提で設計しないと、数字だけ集まって中身が無いことになるからね。


1. 2つは目的が違う

まず使い分けです。

定量調査 定性調査
聞くこと どれくらいか なぜか
方法 アンケート、行動ログ インタビュー、観察
人数 多い(数百〜) 少ない(5〜10人)
分かること 割合、傾向 理由、言い回し
向く場面 仮説を確かめる 仮説を作る

一番大事なのは最後の行です。定性で仮説を作って、定量で確かめるという順番になります。

逆をやると失敗します。何も仮説がないままアンケートを配ると、何を聞けばいいか分からないので、当たり障りのない質問だけが並びます。返ってくるのは「価格が重要:78%」のような、知っていたことの確認だけです。

第7回でやった「断られた理由を聞く」は定性調査です。あそこで仮説が出たので、次に人数を集めて確かめる、という流れになります。


2. 質問が答えを作ってしまう

ここが今回の本題です。

うちで最初に配ったアンケートに、こういう設問がありました。

Q. ハウスクリーニングを選ぶとき、以下をどれくらい重視しますか? 「価格」「品質」「対応の早さ」「実績」

結果は、全部が「重視する」でした。当たり前です。聞かれたら誰でも重視すると答えます。

この設問には3つ問題があります。

ひとつは、選択肢を見せていることです。見せられた項目は「言われてみればそうだ」と思ってしまいます。本当は気にしていなかったものまで選ばれます。

次に、重視するかどうかを聞いている点です。重視するかどうかと、実際に選ぶ決め手になったかは別です。

そして、全部に丸をつけられてしまいます。現実の買い物は、どれかを諦めて選んでいます。その構造が消えています。

嫁子: 分かる。「重視しますか」って聞かれたら、全部「はい」って言うよ。

だって重視しないって答えるの、感じ悪いでしょ。そういう気持ちも混ざってるからね。


3. 直した聞き方

同じことを知りたいなら、こう聞きます。

① 選ばせる(トレードオフにする)

Q. 次の2つなら、どちらを選びますか? A. 料金は2万円だが、作業は平日のみ B. 料金は2万5千円だが、土日も選べる

どちらも良いものにして、諦める側を作ります。これなら答えに情報があります。

② 実際にやったことを聞く

Q. 前回、業者を探したときに最初に開いたページはどこでしたか Q. 問い合わせる前に、やめた会社はありますか。理由は何でしたか

意見ではなく行動の記憶を聞きます。第5回で「性格ではなく直前の行動を書く」と言ったのと同じ理屈です。

③ 自由に書いてもらう欄を1つ置く

選択肢のない欄を1つだけ用意します。ここに書かれた言葉が、第7回で言った生の言葉になります。

全部を自由記入にしないことが大事です。書くのが面倒になって、回答率そのものが落ちます。


4. 少ない人数でも意味がある

「何人集めればいいですか」と最初に聞きました。答えは目的によって全然違います。

理由を知りたいなら、5人でも十分に意味があります。3人目くらいから同じ話が繰り返し出てくるので、そこが仮説の候補になります。

割合を出したいなら、人数が要ります。ただしここで注意点があります。

100人に聞いて「60%」と言えても、その100人が偏っていたら意味がありません。

うちで実際にやった失敗がこれです。既存顧客にアンケートを配って「満足度92%」という数字が出ましたが、答えたのは、うちを選んで満足した人だけです。選ばなかった人はそこにいません。

知りたかったのは「なぜうちが選ばれないか」だったので、聞く相手を間違えていました。


5. AIに任せるとき(1つだけ絶対にやってはいけないこと)

設問の下書きと、集まった自由記入の整理はAIが得意です。特に後者は、100件の自由記入から繰り返し出てくる言い回しを拾うのが速いです。

ただし、絶対にやってはいけないことが1つあります。

架空の回答者を作らせて、その回答を調査結果として扱うことです。

「30代共働き女性10人にインタビューした想定で回答を作って」と頼めば、それらしいものが出てきます。読むと非常にもっともらしいのですが、これは調査ではなく創作です。

はじめにで書いた②(数字を作文する)の、もっと危ない版だと思ってください。数字なら根拠を聞かれて気づけますが、架空のインタビューは、本物と見分けがつきません。社内で一度通ってしまうと、その後の判断が全部その上に乗ります。

使い方の線引きはこうです。

やっていい やってはいけない
設問の下書きを作らせる 回答を作らせる
誘導的な設問を指摘させる 架空の人物にインタビューする
集まった自由記入を分類させる 集計結果を推測で埋めさせる

左の2番目は実際に役立ちます。作った設問を貼って「この質問は答えを誘導していないか」と聞くと、2節のような問題を拾ってくれます。


つまずきポイント

満足度調査で満足度だけ見ない。 答えてくれる人は、もともと好意的な人に偏ります。

聞く相手を先に決めてください。 既存顧客・失注客・まだ知らない人では、同じ設問でも意味が変わります。

設問は10問以内にしてください。長いと後半が適当になり、そこだけ質の悪いデータが混ざります。


今回のまとめ


次にやること

第2部はここまでです。誰に売るかが決まったので、次回から第3部(何を売るかを決める)に入り、まずは「機能を並べても売れない」理由を扱います。

今回の宿題:手元にあるアンケートの設問を見て、「重視しますか」型の質問を1つ、選ばせる形に書き換えてみてください。

嫁子: 第2部おつかれさま。今回まででね、誰に売るかは決まったの。

ここ、決めずに進む会社がすごく多いところだよ。決まってないまま広告を出すと、第4回で言った「どなたでも」の広告になるからね。次からは、その人に何を売るかの話だよ。