【第9回】機能を並べても売れない|ベネフィット(嫁子が教えるマーケ講座)

今回のゴール

第3部に入ります。第2部で誰に売るかが決まったので、ここからは何を売るかです。全体の流れは講座の目次へ。


嫁子: 今日のはね、あなたはもう営業でやってたことだと思うよ。

お客さんの前で「これ使うと奥さん喜びますよ」って言ってたでしょ。それがベネフィットで、それを文章のほうでやるのが今回だよ。


1. 3つの段階

うちの会社のサイトには、こう書いてありました。

高圧洗浄機と業務用洗剤を使用。国家資格保有スタッフが対応します。

これは機能です。何を持っていて、何ができるかを説明しています。

ここから2段階あります。

段階 中身 例
機能 何があるか 高圧洗浄機と業務用洗剤
メリット それで何ができるか 市販洗剤で落ちない油汚れが落ちる
ベネフィット 相手がどうなるか 半年気になっていた換気扇を、もう気にしなくていい

右へ行くほど、書かれている主語が自分たちから相手に移ります。

営業のときは、これを口頭で自然にやっていました。「奥さん、これ換気扇の裏まで外して洗うんですよ」と言ってから、相手の反応を見て「もう自分でやらなくて済みますよ」と足していたはずです。


2. メリットとベネフィットの違い

この2つが一番混ざります。

メリットは商品側の話で、ベネフィットは相手側の話です。

「油汚れが落ちる」は、誰が聞いても同じ事実です。一方「もう気にしなくていい」は、半年放置して気にしていた人にだけ意味があります。

つまりベネフィットは、ターゲットが決まっていないと書けません。第5回でペルソナを行動で書き直したのは、ここで使うためでもありました。

機能は全員に同じ、ベネフィットは相手ごとに違う、と覚えると混ざりません。


3. 書き換えの手順

やり方は単純で、「だから何?」を繰り返すだけです。

高圧洗浄機を使います → だから何? → 市販の洗剤では落ちない汚れが落ちます → だから何? → 自分でやって挫折した汚れが片づきます → だから何? → 半年見て見ぬふりをしていたものが、1日で終わります

3回目あたりで、第5回のペルソナに書いた「洗剤を買ったが1回で挫折した」とつながります。つながった時点で止めるのが正解です。

止まらずに続けると、次の節の失敗になります。


4. やりすぎると、誰にも届かなくなる

ここが今回いちばん大事なところです。

さっきの続きをもう2回やってみます。

→ だから何? → 家事のストレスから解放されます → だから何? → 心にゆとりのある暮らしが手に入ります

最後の行、どこかで見た感じがしませんか。第5回でAIが作ったペルソナに出てきた「心の余裕」とほぼ同じです。

抽象度を上げるほど、当てはまる人は増えますが、刺さる人はいなくなります。「心にゆとりのある暮らし」は、ハウスクリーニングでも家電でも旅行でも言えてしまいます。どの商品の広告か分からない文章は、誰も自分のことだと思いません。

嫁子: それ、本当にやめてほしい。

「心にゆとりのある暮らし」って書かれてもさ、私が欲しいのはゆとりじゃなくて、換気扇がきれいになることなんだよ。

結果としてゆとりができるかもしれないけど、それはこっちが勝手に思うことでしょ。先に言われると、話を大きくされてる感じがするの。

止めどころの目安は1つです。具体的な物や場面が文章から消えたら、1つ前に戻してください。「換気扇」が消えた時点で行きすぎです。


5. サービス業で効くベネフィット

うちで書き換えてみて、反応が変わったのは次の3つでした。どれも掃除の品質そのものではありません。

元の説明 書き換え後
国家資格保有スタッフ 作業中は外出できます(留守でも進みます)
見積もり無料 作業前に総額が確定します。追加請求はありません
丁寧な作業 片づけずにそのままで大丈夫です

3つとも、第7回で見つけたインサイトから来ています。インサイトを打ち手に変える場所が、まさにここです。

3番目は特に効きました。技術の話は1つも入っていませんが、頼む前の心理的なハードルを1つ外しています。


6. AIに任せるとき

「この機能をベネフィットに書き換えて」はAIが得意な作業です。候補を10個出させて選ぶ、という使い方が速いです。

ただし、放っておくと必ず抽象度が上がります。4節で見た「心にゆとりのある暮らし」の方向に寄っていきます。

なので頼み方に条件を足します。

  1. ターゲットを先に渡す(第5回のペルソナをそのまま貼る)
  2. 「具体的な場面か物を必ず1つ入れて」と指定する
  3. 「心・豊か・上質・ゆとり という言葉は使わないで」と禁止語を伝える

3番目は実際に効きます。禁止すると、AIは具体的な言い方を探しに行きます。

返ってきたものへの点検は1つです。その文章から商品名を隠して、何の広告か分かるか。分からなければ抽象的すぎます。


つまずきポイント

機能を消す必要はありません。 「高圧洗浄機を使用」も、比べている人には判断材料になります。順番を変えて、ベネフィットを先に置くだけで十分です。

社内で好かれるのは、たいてい抽象的なほうです。「心にゆとりのある暮らし」は会議で通りやすく、「片づけずにそのままで大丈夫です」は地味に見えます。効くのは後者です。

ベネフィットはターゲットごとに書き分けてください。第4回で3つに分けたなら、3通り必要です。


今回のまとめ


次にやること

次回は「うちの強み」が強みになっていない理由です。同じベネフィットを競合も言っているとき、どこで差がつくのかを扱います。

今回の宿題:自社のサイトの説明文を1つ選んで、「だから何?」を3回やってみてください。4回目をやりたくなったら、それが行きすぎのサインです。

嫁子: 最後にひとつ。ベネフィットって「良いこと」だけじゃなくてもいいと思うよ。

「これをやらないとどうなるか」も同じくらい効くからね。換気扇を放置すると火事のリスクがある、とか。脅すのは嫌だけど、事実なら知りたいよ。