【第10回】「うちの強み」が強みになっていない理由|ポジショニング(嫁子が教えるマーケ講座)
今回のゴール
- 強みが比較の中でしか成立しない理由が分かる
- ポジショニングマップの軸を都合よく選ぶ罠を避けられる
- 本当の競合を取り違えていないか確かめられる
第9回でベネフィットを書きました。今回は、それを競合も言っているときの話です。全体の流れは講座の目次へ。
嫁子: 「うちの強みは丁寧な対応です」って、たぶん全部の会社が言ってるよ。
買う側からすると、それ何も言ってないのと同じなの。今日はそこをどうするかだね。
1. 強みは、自分だけでは決められない
社内で「うちの強みは何か」と聞くと、だいたいこう返ってきます。
丁寧な作業、地域密着、経験豊富なスタッフ、明朗会計
同業他社のサイトを5社見たら、同じ4つが並んでいました。全員が言っていることは、比べる材料になりません。
ここが出発点です。強みは自社の中にあるのではなく、競合と並べたときの差にしかありません。
「丁寧」は強みではなく、この業界の参加条件です。丁寧でない会社は、そもそも候補に残りません。
| 種類 | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| 参加条件 | 無いと候補に入らない | 丁寧、清潔、時間を守る |
| 差 | あると選ばれる理由になる | 留守でも作業できる、総額が先に確定する |
書くべきなのは下の行です。比べたときに違うことだけが、強みとして機能します。
2. ポジショニングマップの罠
差を見つける道具として、2本の軸で図を作る方法があります。縦に品質、横に価格を取って、自社と競合を置くというものです。
やってみると分かりますが、必ず自社が良い位置に来ます。
理由は単純で、自社が勝てる軸を無意識に選んでいるからです。「品質×価格」を選ぶ時点で、品質に自信がある会社の図になっています。
私も最初にこれをやって、上司に「で、その軸はお客さんが気にしてるの?」と聞かれて答えられませんでした。
軸の選び方
正しい順番は、軸を自分で決めないことです。
第7回で集めた生の言葉と、失注理由を並べます。そこでお客さんが実際に迷った軸を探します。
うちで出てきたのは、次の2本でした。
- 立ち会いが要るか、要らないか
- 総額が先に分かるか、作業後に決まるか
どちらも、社内では誰も強みだと思っていなかったところです。品質でも価格でもありません。
この2軸で5社を並べると、両方を満たす会社が1社もいませんでした。ここが空いている場所です。
嫁子: 私が比べるときに見てるの、まさにそこだよ。
品質は正直、やってもらうまで分からないからね。比べようがないの。だから先に分かることだけで比べてるんだよ。立ち会いが要るかとか、いくらかとか。
3. 本当の競合は、同業とは限らない
ここが今回いちばん見落とされるところです。
うちの競合を調べろと言われて、最初はハウスクリーニング会社を10社リストにしました。これが間違いでした。
第6回のジャーニーで、一番長い段階は「あきらめる」だと書きました。つまり多くの人は、他社に頼んでいるのではなく、どこにも頼んでいません。
競合を並べ直すとこうなります。
| 競合 | 相手が選んでいること | どれくらい多いか |
|---|---|---|
| 自分でやる | 洗剤を買って自力で落とす | 非常に多い |
| 放置する | 気にしつつ何もしない | 一番多い |
| 他社に頼む | 同業を選ぶ | 意外と少ない |
勝負している相手が違えば、言うべきことも変わります。
他社と戦うなら「他社より安い」ですが、「自分でやる」と戦うなら「自分でやると3時間かかって、たぶん落ちません」になります。「放置する」と戦うなら、そもそも放置していることを思い出してもらうところから始まります。
うちが一番効いたのは、自分でやる方法を説明する記事でした。第6回で「調べている人に売り込まない」と書いたのは、この構造が理由です。
4. ポジションを1行で書く
見つけたものを1行にまとめます。型はこうです。
(ターゲット)にとって、(自社)は(競合)と違って(差)である。なぜなら(根拠)だから。
うちの場合はこうなりました。
共働きで換気扇を放置している人にとって、うちは他社と違って立ち会い不要で、総額が作業前に確定する業者である。なぜなら、鍵預かりの仕組みと定額メニューを用意しているから。
「なぜなら」が書けるかが分かれ目です。根拠が仕組みや設備にあるなら本物で、心構えしか書けないなら、それは参加条件です。
「なぜなら、丁寧を心がけているから」は根拠になりません。真似されるからです。
5. AIに任せるとき
競合調査の下ごしらえはAIが速いです。「この5社のサイトから、訴求している内容を抜き出して」は実用になります。
危ないのは2つです。
軸を提案させると、教科書的な軸が返ってきます。 品質×価格、専門性×価格。2節で書いた通り、これらはお客さんが迷った軸とは限りません。軸は生の言葉から自分で決めてください。
競合を聞くと、同業しか出てきません。 「自分でやる」「放置する」は、頼まない限り出てきません。ここは3節を自分で足す必要があります。
使える頼み方はこうです。
- 競合サイトの文章を渡して、言っていることを一覧にさせる
- そこに自社の文章も混ぜて、区別がつくか聞く
- 「全社が言っていること」と「1社しか言っていないこと」に分けさせる
2番目が地味に効きます。自社の文章を混ぜて、AIがどこの会社か当てられなければ、差が無いということです。
つまずきポイント
参加条件を捨てないでください。 丁寧さは強みにはなりませんが、無くなれば候補から外れます。書く場所を変えるだけです。
社内で自慢している点と、選ばれている理由は違います。 技術に自信がある会社ほどここがずれます。失注理由を見ると分かります。
強みは変わります。他社が同じ仕組みを入れたら、それは参加条件に落ちます。1年に1回は並べ直してください。
今回のまとめ
- 強みは自社の中ではなく、競合と並べたときの差にしかない
- 全社が言っていることは参加条件であって差ではない
- ポジショニングマップは、放っておくと自社が勝てる軸を選んでしまう
- 軸はお客さんが実際に迷った軸から取る(生の言葉と失注理由)
- 🔑 本当の競合は同業とは限らない。「自分でやる」「放置する」のほうが多い
- 1行にまとめて、「なぜなら」が仕組みで書けるか確かめる
- AIには軸を決めさせない。自社の文章を混ぜて区別がつくかを試す
次にやること
次回は値段を原価から決めてはいけないです。ポジションが決まると、価格の決め方も変わります。
今回の宿題:同業5社のサイトを開いて、書いてあることを書き出してみてください。自社と区別がつかなければ、そこが出発点です。
嫁子: 3節の話ね、あれ本当に大事だと思う。
私が業者を頼まないとき、他の会社に頼んでるわけじゃないの。何もしてないだけだよ。
だから他社の悪口を言われても響かないんだよね。「自分でやらなくていい」って言ってくれるほうが、よっぽど動くと思う。