【第11回】値段を原価から決めてはいけない|価格(嫁子が教えるマーケ講座)

今回のゴール

第10回でポジションを決めたので、今回はいくらで売るかを決めます。全体の流れは講座の目次へ。


嫁子: 値段の話は、買う側として一番言いたいことがあるところだよ。

先に結論を言うとね、安ければ選ぶ、わけじゃないの。これ本当だからね。


1. 決め方は3つある

価格の決め方は、大きく3種類です。

決め方 何を基準にするか 出てくる値段
原価から かかった費用+利益 2万円
競合から 他社の相場に合わせる 2万2千円
価値から 相手にとっての値打ち 2万8千円

うちが最初にやっていたのは1番目でした。作業員の人件費と移動と材料を足して、利益を乗せる。計算はできますが、この方法だけだと必ず安くなります。

理由は、原価には相手にとっての値打ちが1円も入っていないからです。


2. 相手にとっての値打ちを出す

3番目の考え方は、こう出します。

「これを買わなかったら、相手は何を払うことになるか」を金額にします。

うちの換気扇クリーニングだとこうなります。

頼まなかった場合 内容
自分でやる 洗剤代2千円+3時間+手が荒れる+たぶん落ちない
業者を探し直す また比較に1時間
放置する 気になり続ける。最悪は買い替え(数万円)

3時間を時給換算するのは乱暴ですが、少なくとも2千円の洗剤代と3時間は実在します。ここに「自分でやると落ちない」が乗ります。

そう考えると、2万円という値段は原価から見れば妥当でも、値打ちから見れば安すぎたということになります。

第9回でベネフィットを書いたのは、ここで効きます。ベネフィットが言葉にできていない会社は、値打ちを価格に乗せられません。


3. 安すぎると選ばれない

ここが今回いちばん意外なところです。

第7回で見つけた行動の矛盾を覚えているでしょうか。「安いところを探している」と言いながら、最安の会社には問い合わせていないというものでした。

サービス業では、これがはっきり出ます。品質が事前に分からないので、値段が品質の代わりに読まれるからです。

3社が2万円・2万2千円・9千円で並んでいたら、9千円には別の疑問がつきます。何か足りないのではないか、後から追加されるのではないか、という警戒です。

嫁子: それ、本当にそう。

他人を家に入れる仕事で相場の半額だと、安いというより、何かあるんじゃないかと思うの。

安心して選べる範囲って、だいたい真ん中から少し下なんだよね。一番安いのは選ばないよ。

もちろん、これは他人が家に入るサービスだからこその反応でもあります。物販なら話は変わります。自社がどちらに近いかは、失注理由を見て判断してください。


4. 値下げが一番危険な理由

会議で数字が伸びないと、必ず「価格を下げては」という話が出ます。営業部からも来ます。

ただし値下げは、打ち手の中で一番戻しにくいものです。

ひとつは利益への効き方が急なことです。粗利が半分の商売で2万円を1万8千円にすると、売上は10%減りますが、利益は20%減ります。同じ利益を保つには、件数を大きく増やす必要があります。

次に、元に戻せません。一度2万円で買った人は、次も2万円だと思っています。値上げは新規より既存客に効きます。

そして3節の問題が起きます。下げすぎると、安心して選べる範囲から外れます。

代わりの手を先に持っておくと、会議で止められます。

代わりの手 中身
下の価格帯を足す 本体は据え置き、範囲を狭めた安い枠を別に作る
まとめ売り 2か所頼むと少し安い(単価は維持、単発の総額は上がる)
時期で変える 閑散期だけ下げる(通年では下げない)

本体の値段を下げるのは最後にしてください。


5. 見せ方で受け取られ方が変わる

同じ金額でも、出し方で印象が変わります。うちで変えたのは3つです。

まず幅ではなく定額にしました。「1万5千円〜3万円」は、読む側には3万円に見えます。上限を見て判断されるので、条件を絞って定額にしたほうが動きます。

次に総額を先に出しました。第7回のインサイト「総額が見えないのが怖い」への直接の答えです。

最後に比較する材料を並べました。3つの料金プランを置くと、真ん中が選ばれやすくなります。ただしこれは選ばせる意図が透けると逆効果なので、実際に成立するプランだけを置いてください。


6. AIに任せるとき

価格の計算や、複数プランの組み方の候補出しには使えます。

やってはいけないのは、相場を聞くことです。

「ハウスクリーニングの相場は」と聞くと、金額が返ってきます。出典はありません。はじめにの②(数字を作文する)が、一番高くつく形で出るのがここです。その数字で値段を決めたら、直接損失になります。

相場は自分で調べます。同業5社のサイトを開けば、実際の金額が書いてあります。それが一次情報です。

使える頼み方はこうです。

  1. 自分で調べた5社の価格を渡す
  2. 自社の原価と粗利率を渡して、成立する範囲を計算させる
  3. プランの組み方の候補を出させる

2番目は計算なので信頼できます。粗利の計算を間違えていれば指摘してくれます。


つまずきポイント

原価の計算自体は必要です。 下限を知らないと赤字になります。使うなというのではなく、それだけで決めるなということです。

価格を変えたら、営業部に先に伝えてください。 現場が古い値段で話すと、その場で信用を失います。

値上げするときは、同時に何かを足すと伝わりやすくなります。理由なく上げると離れますが、範囲や保証が増えているなら説明できます。


今回のまとめ


次にやること

次回はサービス業は「人」が商品になるです。ここまでの商品・価格の話を、4Pという枠組みで整理し直します。

今回の宿題:自社の商品について「これを買わなかったら、お客さんは何を払うことになるか」を書き出してみてください。金額と時間の両方で書けると、価格の根拠になります。

嫁子: 最後にひとつだけ。高いのが嫌なんじゃなくて、納得できないのが嫌なんだよ。

3万円でも、何にいくらかかってるか分かれば払うよ。同じ3万円でも、内訳が分からないと高く感じるの。値段そのものより、そっちだと思う。