【第21回】一度きりの客か、続く客か|LTV(嫁子が教えるマーケ講座)
今回のゴール
- LTVの計算方法が複数ある理由が分かる
- 継続年数を願望で置く失敗を避けられる
- 「LTVで見れば合う」の危ないところが説明できる
第20回でCACが実際は48,000円だと分かりました。今回はそれを回収できるかの話です。全体の流れは講座の目次へ。
嫁子: 今日のはね、私がもう一度頼むかどうかの話でしょ。
先に買う側から言っておくと、「続けてもらえる前提」で計算するのは、けっこう危ないと思うよ。私、平気で他所に行くからね。
1. LTVとは何を見ている数字か
1人のお客さんが、取引の最後までに落としてくれる金額です。第2回で一度出しました。
なぜ必要かというと、第20回で出したCACが、1回の取引だけでは回収できないことがあるからです。
うちの架空の数字で並べます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 1回あたりの売上 | 30,000円 |
| 粗利(50%) | 15,000円 |
| CAC(第20回) | 48,000円 |
1回で終わったら、1件あたり33,000円の赤字です。これだけ見れば、この広告は止めるべきという結論になります。
ところが年2回、3年続くなら、話が変わります。
粗利 15,000円 × 年2回 × 3年 = 90,000円
CAC 48,000円を引いても、42,000円が残ります。合っていることになります。
2. 計算方法は1つではない
ここで注意が要ります。上の計算は、いくつかある出し方のうちの1つです。
| 出し方 | 式 | 使える場面 |
|---|---|---|
| 単純式 | 単価 × 頻度 × 継続年数 | 手元に実績が少ないとき |
| 解約率から | 粗利 ÷ 解約率 | 契約型・サブスク |
| 実績から | 既存顧客の累計購入額の平均 | データがあるとき |
一番信用できるのは3番目です。実際に起きたことを数えているだけなので、前提がありません。
1番目と2番目には、将来の予測が入っています。ここが次の節の問題になります。
社内で使っている出し方に合わせるのが先で、自分の流儀を持ち込むのは後です。第2回でも同じことを書きました。
3. 継続年数を願望で置かない
ここが今回いちばん危ないところです。
1節で「年2回、3年続くなら」と書きました。この3年は、どこから来た数字でしょうか。
うちの場合、正直に確認したらこうでした。
- 会社ができて4年目
- 顧客記録が整理されているのは直近2年分(第18回の通り)
- 3年続いた顧客が実在するかどうか、確認できていない
つまり3年という数字は、誰も確かめていませんでした。
この状態で「LTVは9万円なのでCACは4.8万円まで出せます」と報告すると、願望を根拠にして予算を決めることになります。
確認できていない継続年数でLTVを出すのは、数字の形をした希望です。
どうすればいいか
実績のある範囲で計算します。うちなら2年分しか確認できないので、こうなります。
粗利 15,000円 × 年2回 × 2年 = 60,000円
CAC 48,000円を引くと、残りは12,000円。合ってはいますが、さっきの42,000円とは大違いです。
短めに見積もって合うなら安全で、短めだと合わないなら、それが現実です。
嫁子: 私が同じ業者をどれくらい使うかって聞かれたらね、分からないとしか言えないよ。
よかったら次も頼むけど、引っ越すかもしれないし、安いところが出てくるかもしれないでしょ。3年って決めつけられるの、ちょっと怖いな。
4. 「LTVで見れば合う」の落とし穴
仮に3年分の実績が確認できたとします。それでも、もう1つ見るべきものがあります。
いつ回収できるかです。
| 時点 | 出ていくお金 | 入ってくる粗利 | 差 |
|---|---|---|---|
| 獲得時 | 48,000円 | 0円 | −48,000円 |
| 1年目終わり | — | 30,000円 | −18,000円 |
| 1年7か月ごろ | — | — | ここでようやくゼロ |
| 3年目終わり | — | 90,000円 | +42,000円 |
回収まで1年半以上かかります。この期間は、お金が出ていくだけです。
ここで何が起きるか。毎月新しいお客さんを獲得していると、持ち出しが積み上がります。
月に10件契約するなら、初月は48万円払って粗利15万円。差し引き33万円の持ち出しです。翌月も同じことをすれば、また33万円。回収が始まるのは1年以上先です。
つまり成長すればするほど、手元のお金は減ります。
LTVで見れば合っているのに資金が足りなくなる、というのはこの構造です。LTVは「合うかどうか」を見る数字で、「今月払えるか」は見ていません。
だから報告するときは、2つ並べてください。
- LTVとCACの比較(長期で合っているか)
- 回収までの期間(それまで持ちこたえられるか)
2番目を聞かれないまま予算を通すと、後で困るのは経理です。
5. LTVを伸ばすほうを先に考える
CACを下げるのは大変ですが、LTVを伸ばす手はいくつかあります。しかも多くは広告費がかかりません。
| やること | どの回でやったか |
|---|---|
| 1回目の体験を良くする | 第12回(People・Process) |
| そろそろの時期に連絡する | 第18回 |
| 別のメニューを知ってもらう | 換気扇の客に水回りを案内する |
| 担当者を指名できるようにする | 嫁子が第2回で言っていた話 |
うちで一番効きそうなのは4番目です。仕組みを1つ足すだけで、費用はほぼかかりません。
CACが48,000円と分かったとき、最初に考えたのは広告の改善でした。ただ実際には、回収の側を伸ばすほうが安く済むことがあります。
嫁子: 4番目、本当にやってほしい。
前に来た人がよかったら、また同じ人に来てほしいの。名前を覚えてなくても「前回と同じ方で」って言えるだけでいいんだよ。それができない会社は、私の中では1回きりになりやすいかな。
6. AIに任せるとき
計算と、複数の出し方の比較には使えます。「この数字で、継続2年と3年の両方のLTVを出して」は正確に返ってきます。
危ないのは継続年数や解約率の数字を聞くことです。第11回の相場と同じで、出典のない数字が返ってきます。その数字で予算を決めたら、3節の失敗をなぞります。
継続年数は自社の記録からしか出ません。出ないなら「確認できていない」が正しい答えです。
使える頼み方はこうです。
- 自社の実績データを渡す(いつ・誰が・何回頼んだか)
- 実際の平均継続回数を集計させる
- その数字でLTVを出し、回収期間も一緒に計算させる
3番目は忘れがちなので、指定しておくと良いです。
つまずきポイント
売上ベースのLTVを使わないでください。粗利で見ないと、第2回のROASと同じ間違いをします。
平均LTVだけ見ないでください。第20回と同じで、中を分けると全然違う客層が混ざっています。
LTVは変わります。競合が増えれば継続年数は縮みます。半年に1回は出し直してください。
今回のまとめ
- LTVは1回で回収できないCACを、長期で見て判断するための数字
- 計算方法は複数ある。一番信用できるのは実績から数えたもの
- 🔴 継続年数を願望で置かない。確認できた範囲で短めに見積もる
- 🔑 LTVで合っていても、回収期間を見ないと資金が持たない
- 報告では「LTVとCACの比較」と「回収までの期間」を2つ並べる
- LTVを伸ばす手は広告費がかからないものが多い
- AIに継続年数や解約率を聞かない。自社の記録からしか出ない
次にやること
次回は平均値に騙されないための見方です。今回も第20回も「平均で見ると分からない」と書きましたが、その話を正面から扱います。
今回の宿題:自社の顧客のうち、2回以上頼んだ人の割合を出してみてください。出せなければ、LTVはまだ計算できません。
嫁子: 最後にひとつだけ。リピートって、こっちが決めることだからね。
会社の計画に「3年使ってもらう」って書いてあっても、私はその計画を知らないの。よければ使うし、よくなければ行かないよ。
だから3年使ってもらう前提で予算を組むより、1回目をちゃんとやるほうが先だと思う。