【第20回】1件いくらで獲れているかを出す|CPAとCAC(嫁子が教えるマーケ講座)
今回のゴール
- CPAとCACを正しい分母で出せる
- 広告費だけで計算すると安く見える理由が分かる
- 全体の平均で判断してはいけない理由が説明できる
第19回でKPIを3つに絞りました。今回はそのうちのCPAを、正確に出し直します。全体の流れは講座の目次へ。
嫁子: 今日の話はね、自分の会社の数字を、実際より良く見せてしまう話だと思う。
わざとじゃないの。足し忘れるだけでそうなるからね。
1. 略語が他の業界と衝突しています
本題の前に、実務で一度は困るところを先に書いておきます。
CPAという略語は、マーケティング以外でも使われています。
| 分野 | CPAが指すもの |
|---|---|
| マーケティング | Cost Per Acquisition(獲得単価) |
| 会計 | 米国公認会計士 |
| 医療・救急 | 心肺停止 |
CACも同じで、医療や航空の用語と重なります。LTVに至っては、不動産や金融ではまったく別の意味(借入額の割合)で使われています。
何が起きるかというと、検索して調べたときに、別業界の解説を読んでしまいます。社外の資料を読むときも同じです。
対策は簡単で、調べるときは「CPA マーケティング」のように分野を足してください。第2回で用語の地図を作りましたが、地図の外に同じ名前の場所がある、ということです。
2. 分母を間違えない
第2回で出した式をもう一度置きます。
CPA = 費用 ÷ CV数 CAC = 費用 ÷ 新規顧客数
違いは分母です。うちの場合、CVは問い合わせ、顧客は契約した人なので、別の数字になります。
| 分母 | 架空の数字 | |
|---|---|---|
| CPA | 問い合わせ40件 | 7,500円 |
| CAC | 契約10件 | 3万円 |
ここを取り違えると、4倍ずれます。会議で数字を出すときは、必ずどちらか言ってください。
「獲得単価は7,500円です」と言うと、契約1件が7,500円だと受け取られます。その前提で予算を決められたら、事故になります。
3. 広告費だけで割らない
ここが今回の本題です。
第16回では、広告費30万円 ÷ 問い合わせ40件 = CPA 7,500円 と計算しました。この計算は実際にかかっている費用を全部は含んでいません。
本当はこれだけかかっています。
| 費目 | 月額(架空) |
|---|---|
| 広告費 | 300,000円 |
| 広告運用の代理店手数料 | 60,000円 |
| 使っているツール類 | 20,000円 |
| 担当者の人件費(この業務にかかる分) | 100,000円 |
| 合計 | 480,000円 |
入れ直すと、CPAは 480,000 ÷ 40 = 12,000円になります。7,500円ではありません。
CACも 480,000 ÷ 10 = 48,000円です。
第16回で計算した許容CPAは3,750円でした。広告費だけで見ていた7,500円でも超えていましたが、実際は12,000円で、3倍以上超えています。
費用を足し忘れると、合っていない施策が合っているように見えます。
どこまで入れるか
厳密にやると際限がないので、線を決めておきます。
入れる:広告費、外注費、手数料、その業務に使っているツール代、担当者の人件費のうちその業務にかかる割合
入れなくてよい:全社の共通費用、経理や総務の人件費
人件費を入れるかどうかは会社の方針にもよるので、上司に一度確認してください。大事なのは、入れるか入れないかを決めて、毎月同じ基準で出すことです。基準が月ごとに変わると、比較ができなくなります。
嫁子: 人件費を入れると数字が悪くなるから、入れたくなくなるよね。
でも入れないと「人を増やせば改善する」みたいな変な結論になるでしょ。人を増やしたら費用も増えるはずなのに、その費用が数字に出てこないんだから。
4. 全体の平均で判断しない
もう1つ、よくある失敗です。
CPA 12,000円というのは、全部の経路をまとめた平均です。中を分けると、こうなっていることがあります。
| 経路 | 費用 | 問い合わせ | CPA |
|---|---|---|---|
| 検索広告A | 150,000円 | 30件 | 5,000円 |
| 検索広告B | 150,000円 | 6件 | 25,000円 |
| その他の費用 | 180,000円 | 4件 | — |
| 全体 | 480,000円 | 40件 | 12,000円 |
平均を見ていると「12,000円は高い」で終わりますが、分けるとAは5,000円で回っていて、Bが足を引っ張っていると分かります。
やることは明確です。Bを止めて、Aに寄せます。
平均だけを見ていると、この判断ができません。平均は、中に何があるかを隠します。この話は第22回でもう一度扱います。
5. 測れていない経路をどうするか
第14回で、紹介経由が数字に出ていないと書きました。
紹介で来た人は、広告費がかかっていません。CPAはほぼゼロです。ここを分母に混ぜると、全体のCPAが実際より良く見えます。
分けて出してください。
| 費用 | 件数 | CPA | |
|---|---|---|---|
| 広告経由 | 480,000円 | 40件 | 12,000円 |
| 紹介経由 | 0円 | 8件 | — |
| 合計で割ると | 480,000円 | 48件 | 10,000円 |
一番下の行は意味のない数字です。広告費を払っていない8件で、広告の効率が良く見えているだけです。
費用がかかっている経路と、かかっていない経路は必ず分けてください。
6. AIに任せるとき
計算そのものは安心して任せられます。特に3節のような費用の足し上げは、抜けを指摘してくれるので有用です。
「以下の費用でCPAを出して。入れ忘れている費目があれば指摘して」と頼むと、人件費やツール代を聞き返してきます。
任せてはいけないのは、第11回・第16回と同じで相場の判断です。「CPA 12,000円は高いですか」には答えられません。
高いか安いかは、第16回で計算した自社の許容CPAと比べて決まります。その数字は自社の粗利率からしか出ません。
順番はこうです。
- 費用を全部足す(AIに抜けを聞く)
- 経路ごとに分ける
- 自社の許容CPAと比べる
つまずきポイント
CPAとCACを言い分けてください。 分母が違うので、4倍ずれることがあります。
基準を月ごとに変えないでください。先月は人件費を入れず、今月は入れると、改善したのか悪化したのか分かりません。
CPAが下がったことを成果にしないでください。件数が減れば、CPAは下がることがあります。第19回で「割合と実数を混ぜない」と書いたのと同じです。
今回のまとめ
- CPA・CAC・LTVは他業界と同じ略語。調べるときは「マーケティング」を足す
- CPAの分母はCV、CACの分母は顧客。言い分けないと4倍ずれる
- 🔑 広告費だけで割らない。手数料・ツール代・人件費を入れると数字が変わる
- 入れる基準を決めて、毎月同じ基準で出す
- 全体の平均で判断しない。経路ごとに分けると、止めるものが見つかる
- 費用がかかっていない経路(紹介など)は分母に混ぜない
- AIには計算と抜けの指摘を。高いか安いかは自社の許容CPAと比べる
次にやること
次回は一度きりの客か、続く客かです。今回のCACが高く見えたとしても、リピートがあれば話が変わります。ただしその話には落とし穴もあります。
今回の宿題:自社のCPAを、広告費以外の費用も入れて計算し直してみてください。今まで見ていた数字と、どれくらい違うかを確かめてください。
嫁子: 今日ので一番効くのは、たぶん4節だと思う。
平均の数字しか見てないと、止めるべきものが見つからないからね。全部まとめて「ちょっと高い」になっちゃうでしょ。分けたら、片方はすごく良かったりするんだよ。