【第19回】目標から逆算して見る数字を決める|KPIツリー(嫁子が教えるマーケ講座)
今回のゴール
- 目標を掛け算で分解できる
- 同じ目標への複数の道が見えるようになる
- 動かせない数字をKPIにする失敗を避けられる
第5部に入ります。第4部まででやることが決まったので、ここからは判断のための数字です。全体の流れは講座の目次へ。
嫁子: 今日から数字の話だね。
ただし計算の話じゃないよ。数字を並べる目的は、どこを動かすかを決めることだからね。そこを外すと、ただの集計作業になっちゃうの。
1. 掛け算で分解する
第2回で、KGIが最終目標でKPIが途中の数字だと書きました。問題は途中の数字をどう選ぶかです。
答えは単純で、目標を掛け算に分解して、その要素を見ます。
うちの売上はこう分解できます。
売上 = 契約数 × 平均単価
契約数はさらに分解できます。
契約数 = 問い合わせ数 × 成約率
問い合わせ数も分解できます。
問い合わせ数 = クリック数 × CVR
ここまで並べると、こうなります。
売上 = 表示回数 × CTR × CVR × 成約率 × 平均単価
これがKPIツリーです。足し算ではなく掛け算で分解するのが要点で、掛け算なら「どれかを1.5倍にすれば全体が1.5倍になる」という関係が見えます。
2. 実際に数字を入れる
第2回の架空の数字を入れます。
| 要素 | 現状 |
|---|---|
| 表示回数 | 100,000 |
| CTR | 2% |
| CVR | 2% |
| 成約率 | 25% |
| 平均単価 | 3万円 |
| 売上 | 30万円 |
検算すると、100,000 × 0.02 × 0.02 × 0.25 × 30,000 = 30万円。合っています。
ここで「来月の売上を45万円にしたい」と言われたとします。1.5倍です。
ツリーを見ると、道が複数あることが分かります。
| やり方 | 何をするか | 現実的か |
|---|---|---|
| 表示回数を1.5倍 | 広告費を30万→45万円 | できるが金がかかる |
| CTRを2%→3% | 広告文を変える | 第13回の作業 |
| CVRを2%→3% | 申し込みページを直す | 第14回のフォーム |
| 成約率を25%→37.5% | 営業側の改善 | マーケ部だけでは無理 |
| 単価を3万→4.5万円 | 値上げ | 第11回の話 |
どれか1つが1.5倍になれば、売上は1.5倍になります。
これが分解の価値です。「売上を1.5倍」と言われたときに、広告費を1.5倍にする以外の道が4つ見えるようになります。
うちの場合、第14回で見つけた「夜間に申し込めない」を直せば、CVRは動く可能性があります。広告費を15万円足すより、そちらのほうが先です。
嫁子: この表、営業の人が見たら5行目が気になると思うんだけど。
単価を上げるのが一番早いように見えるでしょ。でもそこだけは数を減らす方向にも効くからね。第11回でやった話とつながるよ。
3. 動かせる数字と、動かせない数字
ここが今回いちばん大事なところです。
分解した数字のうち、自分たちで動かせるものと、動かせないものを分けてください。
| 数字 | 誰が動かせるか |
|---|---|
| 表示回数 | マーケ部(予算次第) |
| CTR | マーケ部 |
| CVR | マーケ部(ページの改善) |
| 成約率 | 営業部 |
| 平均単価 | 経営判断 |
マーケ部のKPIにしていいのは、上の3つだけです。
成約率をマーケ部のKPIにすると、達成できない目標を持たされることになります。営業の人員配置や商談の進め方は、マーケ部では変えられません。
ただし見るのはやめないでください。成約率が落ちていれば、問い合わせの質が下がっている可能性があり、それはマーケ部の問題です。
動かせないが、見る。これを区別できると、責任の押し付け合いが減ります。
営業から来た人には、ここは実感があるはずです。営業のときは自分の数字だけ見ていればよかったのが、マーケでは自分が動かせない数字の影響を受けるようになります。
4. KPIは3つまで
ツリーを作ると、たくさんの数字が並びます。全部をKPIにしないでください。
理由は2つあります。
10個のKPIがあると、どれを優先するか分からなくなります。週次で全部を追う時間もありません。
そして数字が多いほど、都合のいいものを選んで報告できてしまいます。今月はCTRが良かったので、CTRの話をする。それでは何も判断できません。
目安は3つです。うちなら、こうなります。
- 問い合わせ数(部署の主目標)
- CPA(1件いくらで獲れているか)
- CVR(改善の余地が一番ある場所)
残りは「見るが、目標にしない」に置きます。
5. 先に決めておくこと
KPIを決めるときに、一緒に決めておくと後が楽になるものが3つあります。
ひとつは測り方です。「問い合わせ数」が電話を含むのか、フォームだけなのか。第2回でCVの定義を確認したのと同じです。
次に見る頻度。毎日見る数字と、月1回でいい数字を分けます。CVRを毎日見ても、件数が少なすぎて動きが読めません(第16回の話です)。
そして、どうなったら手を打つか。「CPAが1万円を超えたら広告を見直す」のように、先に線を引いておきます。後から決めると、その時の空気で決まります。
6. AIに任せるとき
分解の作業は得意です。「売上をKPIツリーに分解して」で、それらしい構造が返ってきます。
注意点が2つあります。
ひとつは分解が細かすぎることです。20個くらいの要素に分かれた図が出てきますが、実務で追えるのは3つです。細かさは自分で決めてください。
もうひとつ、動かせるかどうかは判断できません。3節の表は社内の役割分担なので、AIは知りません。ここは自分で埋めます。
使える頼み方はこうです。
- 自社の数字を渡して、掛け算の分解を作らせる
- 検算させる(掛け合わせて売上に一致するか)
- 「この中で、CVRを1.5倍にした場合と表示回数を1.5倍にした場合を比べて」と条件を変えて計算させる
3番目が実用的です。会議に持っていく比較表が数分で作れます。
つまずきポイント
掛け算で分解できない目標は、KPIツリーになりません。 「ブランド認知を高める」のような目標は、まず測れる形に言い換えてください。
割合と実数を混ぜないでください。CVRが上がっても、表示が減っていれば問い合わせは減ります。両方見ます。
ツリーは季節で変わります。繁忙期と閑散期で同じ目標を置くと、どちらかが無理になります。
今回のまとめ
- 目標は掛け算で分解する。足し算では改善の効き方が見えない
- 分解すると、同じ目標への道が複数見える(広告費を増やす以外の選択肢)
- 🔑 動かせる数字と動かせない数字を分ける。動かせないものはKPIにしないが、見る
- KPIは3つまで。多いと優先順位が消え、都合のいい数字を選べてしまう
- 一緒に決めるのは測り方・見る頻度・手を打つ線
- AIには分解と検算、条件を変えた試算をさせる
次にやること
次回は1件いくらで獲れているかを出すです。第16回で計算したCPAを、もう少し正確に出し直します。
今回の宿題:自社の売上を掛け算で分解してみてください。3〜4段で止めて構いません。分解したら、各要素を誰が動かせるかを書き足してください。
嫁子: 最後に。ツリーを作って満足しないでね。
作るのが目的じゃなくて、どこを動かすか決めるのが目的だからね。きれいな図ができた時点で終わってる会議、たぶん多いと思うよ。