【第29回】作った数字を引き継げる形にする|ドキュメントと再現性(嫁子が教えるマーケ講座)
今回のゴール
- 手順書より先に残すべきものが分かる
- 数字の定義が消えると何が起きるか説明できる
- 失敗の記録を資産として残せる
最終回のひとつ前です。ここまでで作ったものを、自分がいなくなっても使える形にします。全体の流れは講座の目次へ。
嫁子: 引き継ぎって、辞めるときにやるものだと思ってない?
実は一番困るのは、自分が半年後に忘れたときだよ。未来の自分への引き継ぎだと思って作るといいと思う。
1. 手順書は、実は優先度が低い
引き継ぎ資料というと、まず操作手順を思い浮かべます。広告の管理画面の使い方、ツールへのログイン方法。
これも要りますが、優先度は高くありません。操作方法は調べれば分かりますし、画面が変われば手順書は古くなります。
本当に困るのは、調べても出てこないものです。
| 残すもの | 優先度 | 理由 |
|---|---|---|
| 数字の定義 | 高 | 社外のどこにも書いていない |
| 決めた理由 | 高 | 本人の頭の中にしかない |
| 止めた施策の記録 | 高 | 失われると同じ失敗を繰り返す |
| 取引先・担当者 | 中 | 調べれば分かるが時間がかかる |
| 操作手順 | 低 | 調べれば出てくる |
上の3つが、社内にしかない情報です。
2. 数字の定義が消えると何が起きるか
第2回で「CVが何を指すかは会社ごとに違う」と書きました。ここが消えると、こうなります。
半年後に誰かが「先月のCVRは2%でした」と報告します。その2%は、問い合わせ÷クリックなのか、契約÷問い合わせなのか。分からないまま前年と比べると、存在しない変化を議論することになります。
だから、数字ごとに1行ずつ残します。
CVR = 問い合わせ数 ÷ 広告クリック数 問い合わせにはフォームと電話を両方含む(2026年4月から電話を計上開始) CPA = 総費用 ÷ 問い合わせ数 総費用に人件費を含む(第20回で変更)
括弧の中が大事です。いつから変えたかを書いておかないと、その前後の数字を比べてしまいます。
定義を変えたら、変えた日を必ず書いてください。数字そのものより、こちらのほうが後で効きます。
3. 決めた理由を残す
もう1つ、本人の頭の中にしかないものです。
うちで残したのは、たとえばこういうものでした。
「体力的にきつい」層は今期狙わない(第4回) 理由:困り方は深いが、求めているのは月1回の定期訪問。うちは単発のみで応えられない。 → 定期メニューを作る場合は、この判断を見直すこと。
広告Bは止めた(第20回) 理由:CPA 25,000円で、許容の3,750円を大きく超えていた。 → 再開を検討するなら、CVRを3倍にできる見込みがある場合のみ。
書き方の型は同じです。何を決めたか/なぜか/どうなったら見直すかの3行です。
3行目があると、引き継いだ人が勝手に判断を覆すことも、盲目的に守り続けることも防げます。
嫁子: 3行目、いいね。
「なんでこうなってるか分からないけど、そういうルールだから」って会社にいっぱいあるでしょ。あれ、たぶん理由を書かなかっただけなんだよね。
4. 失敗の記録が一番の資産
第23回で「負けた案も記録する」、第24回で「止めたものを3行で記録する」と書きました。ここでまとめます。
成功の記録は外にもあります。 うまくいった施策は、同じようなことが他社の事例としてどこかに書かれています。
失敗の記録は社内にしかありません。 「うちでこれをやったら効かなかった」は、どこを探しても出てきません。
しかも失敗の記録は、時間を直接節約します。3年前に試して効かなかった施策を、また3か月かけて試すのを防げます。
残すのは3行で足ります。
何をやったか/どれくらいやったか/なぜ止めたか
「失敗集」という名前にすると誰も書かなくなるので、「試したことの記録」くらいにしておくと続きます。
5. どこに置くか
作っても、見つからなければ無いのと同じです。
1か所にまとめてください。 個人のフォルダに散らばっていると、引き継ぎのときに探せません。
検索できる形にしてください。 画像やPDFだけだと、後から言葉で探せません。
更新日を書いてください。 古い資料を正しいものとして読むのが、一番危ない状態です。
第18回で顧客記録を整えたときと同じ話です。道具を入れる前に、何を書くかを決めるほうが先です。最初は表計算1枚で構いません。
6. AIに任せるとき
ここはAIが得意な仕事です。散らばったメモを整形するのは、人間がやると一番続かない作業だからです。
使える頼み方はこうです。
- 手元のメモを渡して、2節の形式(定義+いつから)に整形させる
- 決定事項を渡して、3行の型(何を/なぜ/どうなったら見直す)に揃えさせる
- できた資料を渡して、「これを読んだ人が分からない箇所は」と指摘させる
3番目が実用的です。書いた本人には、抜けているところが見えません。前提を知らない読み手として指摘してもらえます。
注意点が1つあります。⚠️ 判断の理由をAIに書かせないでください。「なぜこの層を狙わないのか、理由を書いて」と頼むと、それらしい理由を作ります。3節で残したいのは実際にあった理由であって、後から作った説明ではありません。
第27回の注意もそのまま効きます。顧客データが混ざったメモは、そのまま貼らないでください。
つまずきポイント
完璧な資料を作ろうとしないでください。9割の会社では、何もないよりはるかにましな状態で十分です。
定期的に見直す日を決めてください。 半年に1回、30分で構いません。決めないと更新されません。
引き継ぎのときにまとめて作らないでください。決めたときにその場で3行書くほうが、正確で楽です。
今回のまとめ
- 優先度が高いのは数字の定義・決めた理由・止めた記録。手順書は調べれば分かる
- 🔑 定義を変えたら、変えた日を書く。書かないと前後の数字を比べてしまう
- 決定は何を/なぜ/どうなったら見直すかの3行で残す
- 失敗の記録は社内にしかない。成功事例は外にもあるが、これは無い
- 1か所に・検索できる形で・更新日つきで置く
- AIには整形と、読み手としての指摘をさせる
- 🔴 判断の理由をAIに書かせない。残すのは実際にあった理由
次にやること
次回が最終回です。1年後の自分に渡すものとして、この講座を振り返ります。
今回の宿題:第2回で確認した数字の定義を、3つだけ書き出してください。CVとCPAとCVRで十分です。それが引き継ぎ資料の1ページ目になります。
嫁子: 最後にね、書くのは決めたときが一番楽だよ。
半年後に「なんでこうしたんだっけ」って思い出すの、すごく時間かかるでしょ。そのとき5分で書けたことを、あとで1時間かけて思い出すことになるからね。