【第28回】営業部を敵に回さない|社内での動き方(嫁子が教えるマーケ講座)
今回のゴール
- 営業とマーケが構造的にぶつかる理由が分かる
- 数字の押し付け合いを避ける方法が分かる
- 営業出身だからこそ使える橋渡しの材料を持てる
法律の回が終わったので、ここからは続けるための話になります。全体の流れは講座の目次へ。
嫁子: 今日はね、あなたが一番得意なはずの回だよ。
だって向こう側に半年前までいたでしょ。その立場が分かってる人がマーケにいるって、けっこう珍しいと思うよ。
1. なぜぶつかるのか
うちでも実際に起きました。問い合わせが増えた月に、営業部から「質の低い問い合わせが増えた」と言われたのです。
最初は理不尽に感じました。件数は増えているのに、文句を言われている。
ただ、構造を見ると当たり前でした。
| マーケ部 | 営業部 | |
|---|---|---|
| 追っている数字 | 問い合わせ数・CPA | 契約数・売上 |
| 増えると嬉しいもの | 件数 | 決まる件数 |
| 件数が増えると | 成果 | 対応の手間が増える |
同じ「問い合わせ」を、片方は成果として、片方は仕事として見ています。
第19回で「動かせる数字と動かせない数字を分ける」と書きました。マーケ部のKPIは問い合わせ数で、成約率は営業部の領域です。分けたのは正しいのですが、分けたままにすると、間に落ちるものが出ます。
問い合わせの「質」がまさにそれです。どちらのKPIにも入っていないので、誰も責任を持っていません。
2. 間に落ちるものを拾う
やったのは単純なことでした。営業に同行して、問い合わせてきた人の話を直接聞きました。
分かったのはこうです。
- 広告経由の問い合わせは、料金だけ聞いて切れることが多い
- 記事経由の問い合わせは、作業内容まで理解していて話が早い
第20回で経路別にCPAを出したのと同じ構造です。まとめて見ていると分かりません。
そこで、経路別に成約率を出してもらいました。
| 経路 | 問い合わせ | 成約 | 成約率 |
|---|---|---|---|
| 広告A | 30件 | 6件 | 20% |
| 記事経由 | 8件 | 4件 | 50% |
| 紹介 | 8件 | 6件 | 75% |
件数は広告Aが一番多いのに、決まる割合は一番低い。営業部の実感は正しかったわけです。
ここから先は話が早くなりました。「件数を増やす」ではなく「記事経由と紹介を増やす」に目標が変わり、営業部と目的が揃いました。
3. 営業出身者が持っている材料
ここが今回の本題です。異動してきた人には、他のマーケ担当者が持っていないものがあります。
言葉が通じる。 営業会議で何が話されているか、何が地雷かが分かります。「リードの質」という言葉が現場で何を意味するかも知っています。
引き継ぐ側の気持ちが分かる。 第1回で書いた通り、名前と電話番号だけ渡されても困ることを体で知っています。
現場の情報が取れる。 これが一番大きいものです。第7回のインサイトも、第5回のペルソナも、材料は営業の頭の中にあります。話を聞ける関係があるかどうかで、質がまったく変わります。
つまり関係を維持すること自体が、仕事の質に直結しています。敵に回すと、一次情報が入らなくなります。
嫁子: 3番目、大きいと思う。
だって第5回で私が文句言ったのって、机の上で作った人物像に対してでしょ。実際に客と話してる人から聞けるなら、そっちのほうが正確に決まってるよ。
4. 揉めないための3つ
実際にやって効いたものを挙げます。
先に見せる。 広告の文面や新しいメニューを、出す前に営業部に見せます。出した後に知らされるのが、一番反発されます。1回5分で済みます。
同じ数字を見る。 2節の表のように、経路別に成約率まで含めた1枚を両部署で共有します。別々の数字を見ていると、話が噛み合いません。
成果を分けない。 契約が取れたとき、それはマーケの成果でも営業の成果でもありません。第19回のツリーで言えば、掛け算の全部が揃って初めて売上になります。どちらかが手柄を主張し始めると、翌月から情報が入らなくなります。
5. 上司への報告
もう1つ、社内で消耗しやすいところです。
第23回で「足りていないときは、足りていないと報告する」と書きました。これができるかどうかが、長く続けられるかを決めます。
報告で気をつけるのは3つです。
良い数字だけを選ばない。 第19回で「KPIは3つまで」と書いたのはこのためでもあります。毎月同じ3つを報告していれば、選びようがありません。
判断の条件を先に共有する。 第24回で決めたやめる基準を、始めるときに言っておきます。後から止めるより、先に言っておくほうが揉めません。
期待値を上げすぎない。 第15回のSEOのように、時間がかかるものは最初にそう言います。「3か月で成果が出ます」と言ってしまうと、3か月後に困るのは自分です。
報告で嘘をつかないことが、結局は一番省エネです。
6. AIに任せるとき
社内向けの資料作りには使えます。特に、同じ内容を相手ごとに言い換えるのは実用的です。営業部向けと経営向けでは、見せる数字が違います。
任せてはいけないのは人間関係の判断です。「この言い方で伝えていいか」と聞いても、相手の性格も過去の経緯も知りません。
もう1つ、⚠️ 社内の対立をAIに相談して、その答えをそのまま使わないでください。もっともらしい正論が返ってきますが、正論で解決しない部分が社内には残ります。
使える頼み方はこうです。
- 数字を渡して、営業部向けの1枚にまとめさせる
- 「この資料で、営業側が反発しそうな箇所は」と先に指摘させる
- 言い方は自分で直す
2番目は素直に役立ちます。自分では気づかない書き方の角を拾ってくれます。
つまずきポイント
マーケの用語をそのまま使わないでください。第2回の略語は、営業部では通じないことがあります。
営業部の数字を評価しないでください。成約率が低いと指摘するのではなく、経路別に分けて材料として出します。
現場に行く回数を減らさないでください。データだけ見ていると、3節の材料が入ってこなくなります。
今回のまとめ
- ぶつかるのは性格ではなく構造。同じ問い合わせを、片方は成果・片方は仕事として見ている
- 🔑 「問い合わせの質」はどちらのKPIにも入っていないので、意識して拾う
- 経路別に成約率まで出すと、件数が多い経路が一番決まらないことがある
- 営業出身者の強みは、言葉が通じる・気持ちが分かる・現場の情報が取れる
- 揉めないための3つは、先に見せる・同じ数字を見る・成果を分けない
- 報告では良い数字を選ばない、判断の条件を先に共有、期待値を上げすぎない
- AIには資料作りと反発しそうな箇所の指摘を。人間関係の判断はさせない
次にやること
次回は作った数字を引き継げる形にするです。ここまでで作ったものを、自分がいなくなっても使える形にします。
今回の宿題:経路別の成約率を、営業部に頼んで出してもらってください。頼むこと自体が、2節のきっかけになります。
嫁子: 最後にひとつ。半年前まで向こうにいたって、ちゃんと言ったほうがいいよ。
「分かってない人が上から言ってる」と思われるのが、一番損でしょ。同じ現場にいたって知ってもらうだけで、話の通り方が変わると思う。